死を運ぶもの

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ひとまずその場は、夏希はもういい、と真雪を制し、猫を埋め、足早に立ち去ることにした。 しかし、このとき、夏希の心には、本人すら説明できないような、どろりとした感情が、確かに流れていた。 それは人間の本質とも言える何かが、例えば魂が、じくじくと、何かを欲し疼いているように思えた。 「真雪はさ」 夏希は、そんな自分の心を隠すかのように、平常心を装い、真雪に問いかける。 「今はまだ出来ないって言っていたけど」 ごくり、生唾を飲む音が酷く大きな音に聞こえた。 「例えば…人…人を殺したりも、出来るのか?」 その問いを口にしてから、実際はほんの僅かな時間しか流れていないのだろうが、夏希には、それが時が止まったかのような、長い長い時間に感じられた。 ポタリ、汗が地面に落ちた。 真雪の声が、静寂を破った。 「ええ、出来るわ」 彼女は、そう言ってほんのりと笑ってみせたのだった。 はじめて見るその微笑に、夏希は何故だか、底知れぬ恐怖を感じていた。
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