死の気配

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その日は、家に帰るのが少し遅くなってしまった。 夏希の家までついてきた真雪であったが、やはり、夏希の家が見える辺りで姿を消してしまっていたのだった。 夏希は玄関をくぐると、母親の小言を受け流して、足早に自室に戻る。 スタンドライトだけ灯した薄暗い室内で、夏希は思案していた。 『人の死が見たいなら、見せてあげる』 真雪は、別れる間際にそう言った。 次に真雪に会うときに、夏希が望むのなら、死神として人の死ぬところを見せる、とそう言ったのだ。 夏希の心はたまらなく惹かれていた。 明確な人の死を見る、ということにか。それとも真雪という存在そのものにか。 何に惹かれているのか、それは分からなかったが、恋焦がれているようなその感情だけは、確かにあった。 夏希は適当に開いていた教科書に目を落とす。 『倫理』 人が人の生の存在に好奇心を持つと言うことは、本能なのかもしれない。 「…明日は、日曜日」 明日を、息を殺して過ごそう。そして、来週、真雪に会おう。 夏希はそんなことをぼんやりと考えたのだった。
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