とある散髪

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 それから、修業という名目のおままごと(修業ごっこ?)が始まった。口下手な私がちゃんと話せるようにとか、なんかとりあえず運動したりとか。  だけど私はやっぱり変われなくて、それでも懲りずに飽きずに付き合ってくれる(付き合わせてくる?)大輝君に、少しずつ、惹かれていった。 「た、大輝君って、その…………どんな人が、好きなの?」  ある日私は、一世一大(誤字ではなく)の質問をした。そしたら彼は言ったのだ。 「髪の長い人がいいなぁ」  その時は調度、担任が髪の長い女の人で、すごい優しかった。多分、先生が好きだったのだろう。  でもとにかく、私はそういうわけで、髪を伸ばしていた。彼の理想に近付くために。彼に好きになってもらうために。  だけど月日が過ぎて、いつからか修業ごっこも無くなって、同時に、私は変わりたいと思わなくなってった。なんか変わろうとすると、「大輝君が見てないのに?」って、切なくなるから。  そして今じゃ他人以上友達ぐらい(?)の関係。私はいつまで経っても変わらないままだったのに、周りは少しずつ、だけど確かに変わっていった。彼も例外では無かったらしい。多分彼は、修業ごっこの事も覚えていないだろう。  ついにこの間、大輝君に彼女が出来たんだけど、その人の髪はミディアムヘアだった。そんなに長くはなくて、ああ、彼の趣味も変わったのかな、って思ったりもした。 「…………」  ああ、散歩って言って家を出たのに、どうして私は、河原で座り込んでいるんだろう。なんか、悲劇のヒロインを気取ってるみたいでちょっと心地好かった。  随分と考え込んじゃったけど、せっかく髪の毛を切って新しい自分に生まれ変わったんだから、髪の事も忘れなきゃ。  だって私は、この髪に乗せていた彼への想いも、一緒に切り落としたはずだから。切り落とせたはずだから。
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