とある散髪

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 ◇◆◇◆◇  朝起きたら、まず、目覚ましがまだ鳴っていない事に驚いた。こんな事中学校の修学旅行以来だから、多分、2年ぶりだ。  まだ鳴るまで30分もあるし、もう1度寝ようか迷ったけど、なんだか頭がすごくすっきりしちゃってて、寝れそうになかった。  頭を掻くと、今までに無いぐらい酷い寝癖を、手触りで感じた。そういえば、最近寝不足だったんだ。だから余計に、沢山寝ちゃったのかもしれない。  頭に触れた手をそのまま手櫛にして少しでも寝癖を整えようとしたら、髪の感触が首の辺りで無くなり空を掻いた。 「……?」  あれ、私の髪ってこんなに短かったっけ? と首を捻ったところで、ようやく思い出す。  そういえば昨日、髪を切ったんだった。だからこんなに、すっきりしているのかもしれない。 「…………そっか」  私は、変わったんだ。  もう、前髪で顔を隠す事も出来なくなってしまった。  だけど多分、これでいいんだ。これで変われたはずだから。  手で触れただけじゃ頼りなくて、昨日変わった私を今日も確認するために、洗面所へ向かった。 「うん。変わった。……よね?」  変わった、というか、もはや別人に見えた。  腰まであった髪は、今は首までのワンレングスになっている。前髪は眉だ。もう少し長いほうがよかったかな、とちょっと後悔して指で引っ張ってみたけど、髪は簡単に伸びてくれなかった。  込み上げる虚しさはきっと、髪の感触が減ったからだろう。昨日までは重たく感じた頭もすごくすっきりしてるし、これは正解だったはず。  だって私は、変われたのだ。  髪と一緒に、昨日まで引きずっていた失恋も切り落とした。切り落とせたんだ。  告白してフラれたわけじゃないけど、好きな人――小学校からの幼なじみに彼女が出来たのだから、失恋は失恋だ。  その事を知って1週間近く全然寝れなかったけど、このすっきり感が、ちゃんと全部切り落としてくれた事を証明している。よく眠れたみたいだし、間違いないだろう。 「…………よし」  小さく気合いを入れてみるけど、鏡の中の表情は変わらない。  心と身体が隔離されちゃったみたいで、なんだか新鮮。有体離脱して自分を見てるみたいだった。
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