とある散髪

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 その有体離脱したみたいな感覚に居ても立ってもいられなくなったのか、やけに胸がモヤモヤして、軽く唇を噛んでみた。  だけどモヤモヤは取れなくて、私は寝癖を直してすぐ、居間に出る。 「あら、優璃(ゆうり)。早いわね」  そしたら先客が居て(考えてみれば当たり前だが、母だ)なんだか少し、入りづらさを感じた。ちなみに優璃というのは、私の名前だ。 「その髪型、似合ってるじゃない」  フフ、と笑いながら言う母。悪意とかは感じないのに、どうしてだろう。なんとなく、嫌な感じがした。 「うん。……えっと、ありがとう?」 「褒めたんだから疑問形にしなくていいのに」  母は私の曖昧な返事に、苦笑いを浮かべる。気を使わせてしまった。やっぱり少し、居づらい。 「……ちょっと、散歩、してくる」  私は言い終える前に、母から目を逸らしていた。  なんでだろう。どうしてこんな、胸がモヤモヤしてるんだろう。  新しい自分に、興奮しているのかもしれない。多分そうだ。そうに違いない。  後ろのほうで母が「青春ねぇ」と言ってるのが聞こえたけど、なんの事か解らなかった。見ていたニュースの感想かもしれない。  家から出たら、まだ少し、肌寒かった。そういえば寝間着のままだ。でも、普段着にするようなやつをそのまま寝間着に使っていただけだから、大丈夫だろう。  私は、何を焦ってるんだろう。  新しい自分という興奮が抑えきれない、という感じはしないのに、今はとにかく、歩きたかった。  少しでもいいから、いつもと違う事がしたかった。
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