とある散髪

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 私が髪を伸ばし始めたのは、小学生の時からだ。理由は簡単。髪を伸ばせば、変われると思っていたから。  ある放課後、リコーダーを教室に忘れた事に気づいて帰路を逆回りしたら、調度、虐めの場面に出くわした。私はすぐ物陰に隠れて、見つかったら私も虐められる、なんて怯えながら、息を潜めていた。  でも、虐めはどんどんエスカレートしていった。最初は口で罵ってただけなのが、徐々に肉体的攻撃も含まれていく。  私は怖くて、でも見つかるのが嫌で、耳を塞いで俯いた。逃げればいいのに、とも思ったけど、見捨てちゃうの? なんていう自分も居て、逃げるに逃げれなくて、私は何も出来ずに居た。  そんな時だった。  私の横を1人の男の子が通り過ぎていったのは。 「おい、弱い者虐めしてんな!」  私は、何が起きたのか解らなかった。怯える事しか出来なかった私にとって、その男の子はまるでヒーローのようで、輝いて見えた。  一悶着あったけど虐めはそこで終わって、惨事にはならなかった。 「大丈夫か? お前も、嫌なら嫌って言えばいいのに」  虐められていた子に手を伸ばした男の子は、膨れっ面で言う。  嫌なら嫌って言う。確かにそれが理想的だ。でもそれ出来たら、誰も苦労はしないんだ。それが出来ない私が言うんだから、間違いない。……いや、それさえも言えないままだから結局、私は私自身に言い聞かせただけって事になるんだけど。  とにかく、世の中勇気のある人ばかりじゃないんだ。私みたいに、陰で怯えるしか出来ない人間だって―― 「にしてもお前、女のクセに偉いなぁ!」  ――瞬間、その男の子の輝きが、私に降り注いだ。 「え…………えっ?」  私は陰で震えてただけだったのに、どこが偉いんだろう。何かの嫌味だろうか。とも思ったけど、 「お前は、お前だけは、逃げなかったじゃん」  彼が言うには、見ないフリをしなかっただけでも合格! らしい。 「でも惜しい! あともうひと頑張りだな! っつうわけで、お前、俺の弟子にしてやる!」 「…………ふぇ?」  正直あまり意味を理解出来ていなかった私は、すごく間抜けな返事をしてしまった。  でも彼は、はっきりと言ったのだ。 「――俺がお前を変えてやろう!」  胸を張る男の子。それが私の初恋。神海大輝(こうみたいき)君との、出会い。
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