蝉時雨

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――ミーンミーン、ミーンミンミン 障子の隙間から、夏の音が聞こえる。 扇風機の回す風は生温く、気持ち悪い。 今日は記録的な猛暑日を向かえるだろうとラジオは平坦に言っていた。 暑い。 日本の夏は昔、もっと涼しかった筈なのに。 最近、やれ地球温暖化、やれ環境汚染だのと政府も世間も落ち着きがない。 暑いのが嫌ならじっとしていればいい。 祖父はよくそう言っていた。 じっとりと汗ばんできた身体をお気に入りだが、使い過ぎた煎餅布団から起こす。 立ち上がり、障子に手をかけ思い切って開くと、さらに暑いむわっとした空気と蝉の大合唱が一気に部屋に流れ込む。 「暑い…」 呟いてもここに誰かが居るわけでもないから気の聞いた返事なんて、返って来ない。 返事は期待していない。
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