蝉時雨

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「…ごほ、ゴホッ…ゲホッゲホッ」 咳が止まらなくなってきた。 最近、体調が悪くなる一方で精神的にも体力的にももう限界に達してしまいそうだ。 この病は治らない。 そして、僕はもうすぐ死ぬのだろう。 これまで生きてきて、良いことなんて1つもなかった。 生まれてすぐに両親は他界した。続いて預けられた叔父夫婦には、ストレスの発散に使われて意地悪ばかりだった。 今は、実家に戻って独りきり。 こうして床に伏せるばかりになったのは、ここに戻ってきてすぐの頃だった。 近所の人は遠巻きに僕を訝しんでは同情の視線を向ける人、バツが悪そうに目を反らす人ばかりだ。 「ゲホッ、ゴホッ…」 起き上がると、咳がひどくなる。 障子を閉めて煎餅布団に戻る。 寝心地は最悪だが、懐かしい匂いがする。 安心する、優しい匂い。
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