すれちがい。

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「どうぞ」 中から聞こえたのは、西園寺の声ではなく、七条の声だった。 「失礼します、七条さん…」 「おや、伊藤くん。郁なら留守ですよ?」 「え!?何で西園寺さんに用があるって分かったんですか!?」 「クス。伊藤くんが会計室に来る用事が他にありますか?」 「あぅ…」 大変分かりやすいがその通りだ。 「それでっ…あの…西園寺さんの居場所知ってますか?」 「さぁ…今日はあまり一緒にいなかったので分かりません…。」 「そうですか…。」 七条からの予想外の言葉に啓太は上手く表情を隠せなかった。 「郁はいませんが、僕と一緒にお茶などはいかがですか?」 「あ…いえ…大丈夫です…じゃあ俺、失礼しますねっ…」 そう言うと、啓太は丁寧に頭を下げ、会計室から出ていった。 「………郁。もう出てきて良いですよ。」 「…あぁ…すまない、臣…」 「郁らしくないですね…。どうかしたんですか?」 「…いや…」 気まずそうな顔をしながら奥の机の下から西園寺は出てきた。 多少の埃を払いながらいつもの椅子に座ると、タイミング良く七条に差し出された紅茶に口を付ける。 「伊藤くん、とっても悲しそうでしたよ?」 「…少し…声が聞こえた……。」 「クス。出てきたかったんでしょう?ホントは。」 「臣ッ!!」 「クスクス…すいません。」 小悪魔モード全開で西園寺をいじる七条に対し、西園寺の表情は切ないものに変化していく。
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