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「お母さん、見て、狐!」
照り付ける陽射し。
人間がこちらを見て通り過ぎて行く中、
幼い少女が母親の手を引き近付いてきた。
「狐さん、大丈夫?痛い?」
頷くことも出来ず、ただただ横たわっていた。
このまま死んでしまおうと思っていた。
少女は俺の頭を撫でた。
「…柚(ユズ)、手当てをしてあげよっか。散歩は中止して、家に帰ろう。」
母親が少女を柚と呼び、俺を抱き上げた。
こんなに暑いのに、腕がとても冷たくて、気持ちが良かった。
「狐さん、元気になってね!」
無邪気な笑顔の少女。
何も知らない純粋な瞳。
人間にも、こんなのがいるんだ。
初めて知った。
揺れが気持ちいい。
少女の笑顔が眩しい。
そして、俺には見えてしまった。
少女が美しく成長した姿と、
彼女が辿る運命が。
そして、俺は決めたんだ。
彼女を守る、と。
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