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彼女は、ふとある事に気づいてしまった。
小さな子供たちがニンジンを嫌うのは、加熱しきれていない青臭さの残ったニンジンを食べさせてしまうからではないのか、と。
サラダなどで最初から青臭さを覚悟して食べるものは、まだいい。しかし良く熱を加えられた、たとえばシチュー、その中に入っているニンジンは普通甘くやわらかくなっている。それを期待した子供たちが口にしたニンジンが固く青臭かった時の衝撃・絶望感は、ニンジンを嫌いにして、他の根菜類をも道連れに野菜すべてを敵視させるのに余りある破壊力ではないのか?
少なくとも自分は食べ物の好き嫌いは少ない(と思う)。野菜の好き嫌いはないし(パセリは食べられないが、あれは食べ物ではないと思っている)、肉、魚に関してもだいたい食べることができる。幼少期に生煮えのニンジンを食すことがなかったからに違いない。
ならば今自分のすべき事は、「防護要塞(シェルター)」内のすべての子供たちの口の中に入るであろう生煮えのニンジンをすべて排除し、良く加熱されて芯まで甘くなったニンジンを片っ端から放り込むことではないのか。
「―――アザレ、見えてる?「敵」が二体、そっちへ行ったかも―――」
よく加熱されたアツアツのニンジンを嫌がる子供たちの口に押し込んだところで、意識が一気に現実へと引き戻される。
「―――もうちょっとで子供たちの一週間分の悪夢の内容をニンジン一色に染められたのに」
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