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 さらに最悪な事に、この白い「敵」以外にこちらに向かっている「敵」が少なくとも二体はいる。3対1。仮に敵味方全て同じ性能だったとしても勝ち目はないだろう。 「ごめん、やっぱ寝てた私が悪かったのかもね」  もっとも、寝ていなかったところで索敵システムにもソナーにも反応しない「敵」に対応できたとは思えないが。そもそもこれだけ近くにいても、白い機体は未だに反応はない。どうせ反応がないのなら幻か何かならいいのに。そんな楽観的な考えを、コクピット外部にハンドグレネードが接触して起きる摩擦音とヘッドホンから聞こえる半泣きの声が一瞬にして思考の外へと吹き飛ばす。 「待っててっ!なんとか隊長達とそちらに向かうから、それまで持ちこたえてくれれば―――」  アザレは、キリオがいつもそうしているように、わざと聞こえるように溜息をついた。 「無理無理、何機で対抗してもこいつには勝てっこないって。私の上半身が炭化している間に、あなたたちはこいつを振り切って安全な所まで―――」  そう言いながら、昔自分を養ってくれていた青年の顔を思い出す。彼も最後の時、今の自分と同じ気持ちでいたのだろうか。索敵システムに今更ながら、遠方から接近する2つの「クライングジェネレーター」の反応。おそらく、先ほどキリオの言っていた「敵」の「6脚蟻型(アント)」だろう。  この目の前の「敵」がわざわざアザレを炭化させずにこう着状態を作ったのはおそらく、彼女を捕虜として捕えて連れ帰るため―――いや、それはない。「敵」に捕虜なんて概念はない。連れ帰る目的は、解体して人間の構造と弱点を調べるためか、もしくは有効な兵器を作る為の実験台にでもするといったところか。少なくとも拿捕されて、生きて帰ってきた人間を見た者は居ない。「敵」の施設を制圧したときに性別も年齢も、人数すらもわからない状態になっているのは何度か見たことはあるが。  ヘッドホンの向こうで聞き慣れている涙声なキリオの声を聞きながら、アザレはまったく別のことを考えていた。なぜ、シェルターの子供たちの口の中に、熱々のニンジンを放り込んでこなかったのか―――image=451899483.jpg
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