さくらの木の下で

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僕には夢があった。 春桜は救えない。 だが、同じように生きたいと願う人々を助けられる人間になりたかった。 だが、今の僕ではそれも夢のまた夢。 「桜花、夢への気持ちは忘れてないよね? もし、忘れて記憶の彼方にあるなら思い出してよ」 春桜のすがるような視線に耐えきれず、僕は視線を反らす。 今の自分を見透かされるのが嫌だった。 「昔は毎日必死に遊んで、ちょこっと勉強して、友達と泣いて、喧嘩して、笑って……それなのに将来なりたいこと、本気で語り合ったよね」 「それは現実を知らないから……」 「現実って何? 諦めるための言い訳?」 僕は口ごもった。 返す言葉が見つからなかったからだ。 「私、夢が出来たの。 今叶わなくても、一緒に墓まで入って、死んだあとか、生まれ変わった次の世界で、叶えてやろうと思ってる」 春桜はきらきらした表情で桜を見上げている。 舞い散る花びらが応援しているかのようだった。 「私は小さい頃のパワーを取り戻したくなったんだ」 清々しい、晴れ渡るような笑顔。 僕は昔の春桜を思い出していた。 (あぁ、春桜はこんな風に笑う子だった) .
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