さくらの木の下で

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春桜の笑顔を長い闘病生活ですっかり忘れていた。 「春桜はタイムマシンがあったらどうする?」 春桜は少しキョトンとしたが、すぐにまたあの美しい顔を見せてくれる。 「未来に行きたいな。 桜花やみんなが何をしているか見に行けるもん」 僕はたいした気のきいたことも思い付かず、 「過去じゃなくて未来なんだね」 と言った。 春の暖かな日差しの中、春桜が笑った。 僕もつられて笑う。 桜の花の木漏れ日は今日は一段と美しく感じた。 僕はこの日見た光景を一生忘れることはないだろう。 それが春桜と見た最後の春だった。 .
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