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そりゃあ、記憶も飛ぶわな。
死んだんだもの。
意識がここにあるってことは、そういうことなんだろう。
そうか。
僕は死んだのか。
死んで、彼女の大切なぬいぐるみになったのか。
神様ってのは優しいなぁ。
身近で見守れるのは嬉しい。
でもやっぱり。
生きて。
一緒に生きていたかったなぁ。
その時だった。
ガチャリと玄関の方から音がした。
彼女が帰ってきた。
「ただいま、高槻(たかつき)君」
と、彼女は言った。
おかえりと返したいが、喋れないのでそれができない。
いや、それより。
彼女は“僕の名前を出して挨拶をした”
「ゴメンね高槻君、ちょっと探し出すのに時間かかっちゃった」
クスリと笑いながら、彼女は僕の顔を覗き込んで声をかける。
ぬいぐるみに向かって、僕の名前を呼んでいた。
僕が死んでから、ぬいぐるみを僕のように扱ってくれていたのだろうか?
「車のナンバーさえ覚えていたらすぐに見つかると思ってたけど、やっぱりそううまくはいかないね。でも大丈夫。ちゃんと仇はとってきたから」
……仇?
どういうことだ?
「できれば高槻君も連れて行って目の前で見せたかったけど、人目についちゃダメだもんね。仕方ないよ」
と、明るい口調で彼女は言うと、僕を両手で持ち上げて、抱き抱えた。
彼女の肩から顔を覗かず形で視界が広がる。
どこに連れていくのだろうか?
くるりとまわって、彼女は廊下に出た。
彼女の肩から見えた景色の内、衣装箪笥の上に黄色い何かが一瞬見えたが、僕はそれが何なのかはわからなかった。
廊下に出て、洗面所に入る。
彼女は抱き抱えた状態から正面を向くように持ち変えた。
洗面所の鏡が、僕の全身を、映し出した。
「流石に全身は持ち帰れなかったけど、首だけになっても愛してるからね、高槻君」
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