1:夜闇の逃亡

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「そ・・・・・・っ」 思わず、マサアは声を漏らした。 夜闇の木々の合間から月明かりが差し込み、その光に晒された幼いミナミの顔。 そこには、赤黒い跡が這っていた。 明らかに何者かに殴られ、鬱血している状態である。 「それ」 「大丈夫だよ」 もうだいぶ前の痣だから、と。 震えた声で問うマサアに、彼女はまるでなんでもないことのように答えた。 「だからって、それ、どうしたんだよっ?!」 「――ここには、盗賊でも出るのかい?」 あまりにも忙しなく訊ねるマサアを遮り、タヤクが口を挟む。 その問いは暗にその類の輩がやったのかと言っていた。 しかし、ミナミはゆっくりとかぶりを振り、 「おとうさんとおかあさんがね、したの」 そう、小さく答えた。 ミナミの言葉に、ケイヤとマサアの肩が小さく震えたが、彼女はそんなことには気付かなかった。 ただただ、子供特有の甲高い声で言葉を紡ぐ。 「んとね、うち、セイタイテキコキュウとかいうのがなかったんだって」 経済的余裕のことだろう。 「だから、わたしを殺すか捨てるかして、お金を浮かせたかったんだって。でもわたし死にたくないし、抵抗してたらぶたれちゃって・・・・・・」 あはは、とミナミは笑う。 だからここまで逃げてきたのだと。 怪我が完治したら近くの町まで行くつもりだったとも言った。
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