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『廃屋』とはよく言ったものだとケイヤは思った。
くい、と眼鏡を押し上げ、改めて部屋を見渡す。
そこはあまりにもぼろぼろな、無意味に広いだけの“入れ物”だった。
外から見た時にも似たような感想を抱いていた。
何処かの貴族の別荘だったのであろう二階建ての豪奢な洋館であったが、白く塗られた壁は所々剥げ落ち、赤色の屋根はくすんで見える。
玄関のドアノブに作られた蜘蛛の巣と屋内に山と溜まっている埃が、何十年も放置されていることを物語っていた。
疲れ果てて気を失うように眠ったキーナを一番長身のマサアが抱き上げて、比較的まともだった部屋のベッドに寝かせる。
とは言え、ベッドを使えるだけましという程度だ。
彼女がゆっくり呼吸を繰り返すのを見、少なからず安堵した男二人の耳に上階からの声が響く。
「おい、こっち!」
タヤクの怒鳴るようなその声に、彼らは眠るキーナを残し軋む階段を上がっていった。
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