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「―――…なんで記憶を無くしたのか、いつ戻るのか、それは申し訳ないけど分からないんだ」 「…いえ、でもそしたら…あたしはどうやって生きていけばいんでしょう…」 本当に申し訳なさそうに、眉を下げて言う坂口先生に言っても仕方ないのに、最後はつぶやきみたい白い診察室の床に消えた。 「あっ、ごめんなさい! なんとかなりますよね!本当にお世話になりました、ありがとうございます」 静まりかえってしまった診察室に、あたしの声がむなしく響く。 「なりました、だ? 行くあても無いのに、どうやって生きて行くつもりだ。なんとかなる訳がないだろう」 坂口さんの言葉が余りにもその通りで、何も言えないままうつ向いて下唇を噛み締めた。 「あぁ~なんて事言うんだよぉ、心細いのに追い詰めなくっていいじゃん。るぅちゃん大丈夫?」 大澤さんによしよしと頭を撫でられて、またこぼれそうになった涙を、こぼすまいと目を大きく見開いた。 「事実だろう。住所も名字も分からない人間など働くのも難しい。まぁ、体を売るのが関の山だな」 「か、体売るって!ちょっと英も黙ってないで、この人でなしになんか言ってやってよ~!」 「分かるまで一緒に居るって約束した。帰ろう?」 最後のは、あたしに手を差し出しながら優しい声ではっきりと言った。 その手を取っていいのか分からないまま、見上げると伊藤さんはニコッと笑って固まっているあたしの手を握る。 「いいかな?隆哉、翔」
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