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病院についてからその瞬間までは今でも忘れられない。幾つもの感情が一気に押し寄せた瞬間だったのだから。
痛みを必死に耐える由依子さんの手を握る事しか出来なかった無力さ。
その無力な自分に対する怒りにも似た感情。不甲斐なさ。悲しみ。
……そして、
大きな産声を上げて小さな命が産まれたその瞬間。
嬉しい…よりももっともっと大きな心の底から沸き上がる熱い、とても熱い感情。
「あらあら、お父さんが先に泣いちゃって」
そう、助産師の人に言われたけれど、恥ずかしくも何ともなかった。これが自分の今の偽りのない感情だったのだから。
由依子さんには内緒にしておこう。
頑張っている姿を励ましながら、自分はその姿が今まで見たどのシーンよりも由依子さんがとてつもなく“綺麗”だと思った。
一言も弱音も吐かず、涙の代わりに汗を流し、産まれた小さな命を胸元に置かれたその姿が、綺麗だった…。
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