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屋上の給水ポンプの上。
そこが楓のいつもの場所であった。
そこで寝るのではなく、ゲームなどをするわけでもない。
ただ、空を眺めているだけだ。
空を眺めると、何故か心が落ち着く。
楓自身でも分からないが、自分はここが好きなんだ、と解釈していた。
今日もまた、はしごを登りいつもの場所に腰を降ろす。
穏やかな風が頬をくすぐる。雲がゆっくりと楓の頭上を進んでいく。その姿を眺めながら楓は息をつきながら寝転がった。
今日はろくに眠れなかったので、ここで仮眠でもとろうと考えていた。
目を閉じて、じっとしていると……。
ガチャッ。
屋上のドアが開いた。
(誰だ……、こんな時間に……?)
自分も言えないが今は1時間目の最中。ここに来る人間はいないといってもいい。
楓は無意識に給水タンクの裏に体を滑り込ませた。
この時間に来るのは、少なくとも生徒ではない。多分先生か、事務の人だろう。
ここで見つかっては後々面倒
なので隠れてやり過ごすことにした。
何者かはドアを開けた後、あたりをキョロキョロ見回しし、中央に歩み寄った。
「ここが一番……が……」
楓はよく聞こえなかったが、何者かはそう呟くとそこで黙ってしまった。
(誰なんだ……? 声的には女みたいだが……)
楓は覗き込もうか迷った。
と言うのも、この沈黙はとても辛い。ましてや楓は給水タンクの裏という窮屈なところに無理やり体を押し込んでいるから尚更だ。
このままの体勢は心身共に堪える。
(すこし……、少しだけなら……)
そう自分に言い聞かせると、楓は身を翻してタンクの側面からそっと覗いた。
そこには、女子生徒が立っていた。
スラっとした姿に、ロングの髪。髪は風に吹かれて、踊るようにたなびいていた。顔は楓とは逆の方向を向いていたため、見えなかった。
(誰だろう……)
楓がもっと乗りだそうとした時―――。
不意に体の力が抜けてきた。
(!? な、なんだ)
楓自身も驚いて困惑していたが、それを無視するかのように力はどんどん抜けていく。
足に力が入らなくなり、ついには体全体の力が抜けた。
コンクリートの上に寝そべるように倒れる。それと同時に意識も徐々に薄れていく。
(く、くそっ……)
楓は力ない声を漏らしたあと、そこで意識が途絶えた。
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