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「櫂さん、入ります!」
ふと、顔を上げると偉そうに歩いてくる金髪の男がいた。
背が高くて少しつり目だが、トップモデルというだけあって、俺の中で一番かっこいいと思う如月さんに匹敵するくらい、彼もかっこいい。
同じ男として、俺が惨めに思えてくる…
「ほら、白雪!挨拶に行きなさい」
「そうだった」
俺は櫂に駆け寄って、軽く頭を下げた。
「初めまして白雪です。よろしくお願いします」
「あんたが白雪か?櫂だ、よろしくな」
櫂は俺を品定めするように、アーモンド色の瞳が上から下までねっとりとしたような視線で見られて、嫌な気分がする。
俺はその視線に苛々し、ボロが出ないようにその場から離れた。
「どうしたの?なんか機嫌が悪いわよ」
「なんでもないよ、吉川さん」
仕事中だから「母さん」ではなく「吉川さん」 と呼んで、気持ちを切り替えるために水をコップ一杯飲み干した。
「白雪さん、櫂さん、スタンバイお願いします!」
「はい!」
俺は櫂と共にそれぞれの香水を持ってカメラの前に立った。今回の撮影での俺たちの関係は"恋人"であり、かなり密着する。
これは仕事だ、私情で動いちゃいけない!
「櫂さんは白雪さんを後ろから抱き締めてください!」
櫂はカメラマンの要求に答えるように、俺を力強く優しく抱き締めた。
抱き締めたその腕は逞しくて、遊んでなければ完璧な男なのにと残念に思ってしまう。
「おい、何考えてんだよ?」
「ひィっ!?」
背後から耳に息を吹き掛けられて、思わず顔をしかめてしまう。
「色気がねぇな…」
「う、煩い!」
「お前、案外強気なんだな」
ニヤリと笑う櫂に沈めたはずの苛立ちがまた込み上げてきて、俺は自分より高い相手を睨み付けた。
俺がこいつの手の内で踊らされているみたいじゃないか…!
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