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その後の撮影なんか最悪なもので、櫂は俺の身体を厭らしく撫でたり、耳に厭らしく息を吹き掛けたりされた。
こんなのやってられるか、とこの場でウィッグを取って床に叩きつけてやりたい気持ちになる。
「はい、オッケーです!お疲れさまでした」
やっと櫂から解放されて、俺にとってかなり長く感じた撮影だった。
母親のいるソファーまで辿り着くと、重い身体を重力のままに勢いよく降ろす。櫂のせいで精神的にクタクタだ。
「お疲れさま」
「母さん、もう櫂とは撮影したくない」
「無理でしょうね」
俺は人生で一番大きいと思えるほどのため息を一つ吐く。
「あ、社長から電話が来たから少し席外すわね」
「分かった」
突然、如月さんから電話が来た母さんは慌ててスタジオから出て行ってしまった。
俺は写真の最終確認が終わるまで、何も食べていない空腹の腹を、置いてあるお菓子で満たそうと手を伸ばす。
「なんだ、腹減ってんのか?」
「…櫂」
「そんな警戒すんなよ」
櫂は遠慮なしに俺の隣に長い足を組ながら座った。余裕たっぷりな笑みが本当に腹が立つ。
俺は、櫂を無視してお菓子を口に放り込んだ。
「白雪、お前ちゃんと食ってんのか?」
「食べてますけど?何でです?」
「さっき触ったときに凄く細かったからな」
これは心配されているのだろうか?
急にそんな態度を取って、櫂の考えていることか全く読めない。
俺は櫂と目が合ってしまう前に視線を反らした。
櫂は黙っていれば綺麗な金髪や、アーモンド色の瞳や整った顔のイケメン。でもこんな性格で悪い男。
そんな奴に引っ掛かる女は馬鹿だと思う。
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