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「お前、今変なこと考えただろ?」
「…いえ、何も」
俺を見透かしたようなこのアーモンド色の瞳が嫌いだと思った。もし、こいつに俺が男だとバレたら弱味を握られたら、何をされるか分からない。
俺はいつも以上にボロが出ないように必死だった。
「この後、暇?」
「…は?」
突然何を言い出すかと思えば、これは夜のお誘いってやつなのか?
ふざけるな、俺は男だ!とは言えないが、この自信に満ち溢れたようなこの目が本当に気にくわない!
「忙しいので、すみません」
「吉川さんは暇だって言ってたけど?」
母さん、余計なことを…!
俺は電話が終ったのに戻ってこないで、カメラマンと楽しそうに会話している母親を思いきり睨み付けた。
「な、いいだろ?」
「嫌です」
「気持ちよくしてやるよ?」
…ぁ゙あ゙ああ!?こいつうぜー!!
「気持ちよくしてやるよ?」じゃねぇし!!!!!!
俺の苛立ちも上限を突破してしまったようで、櫂の胸ぐらを掴むと顔を近付けて、その嫌いな瞳を睨み付けた。
櫂はそれに驚いて、その瞳を大きく見開く。
「…悪いけど、誰でもホイホイと着いていくと思うなよ?」
未だに目を見開いたまま驚く櫂が滑稽に思えて、見下すように笑ってから胸ぐらを掴んでいた手を離した。
「白雪、行くわよ」
「はーい!櫂さん、お疲れさまでした」
母親に呼ばれて、俺は完璧な作った笑顔で櫂に別れの挨拶をした。そして母親の元に駆け寄ると、スタッフさん全員にも挨拶をしてスタジオを出る。
そのまま駐車場に向かって、俺は母親に家まで送ってもらい、車の中でウィッグと衣装を脱いで制服に着替えた。
「そう言えば母さん、櫂に変なこと話してないよね?」
「いけなかったー?」
「止めろよ!母さんのせいで櫂に襲われそうだったんだからな!」
母親は「あらあら」と呑気に言って、全く反省の"は"の字もないようだ。
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