136人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は腕時計を見ると、まだ夜の八時であることを知った。
撮影が始まったのは五時前くらいだったから、三時間もあの苦痛の中に居たことになる。
「真白、母さんは会社に戻らないといけないの。だから優花と一緒にご飯食べててね」
「分かった」
ようやく、他の家よりは大きいであろう自宅に着いて、また会社に向かう母親を見送った。
車が見えなくなると家の中に入って、優花がいるキッチンに顔を出す。
「あ、お帰りお兄ちゃん!」
「ただいま、優花」
「今日はね、お兄ちゃんが好きなカレーにしたから、早く着替えてきて!」
妹の優花は少し白雪に似た顔で笑った。兄弟だし似てるのは当然だ。
優花は一つ下の高校一年生であり、料理などの家事全般を担当していて、とても心優しい可愛い妹。
態々、俺を白雪にするのではなく優花にすれば良かったのだが、優花は勉学も部活も大変な為仕方無く俺が白雪になっているのだ。
どうせ俺は暇人さ。俺だってそこそこの進学校に通っているけど、部活はしていないから。 暇さえあれば読書をするくらいだ。
「お兄ちゃん、今日の撮影は誰だったの?」
「……櫂」
「櫂と!?」
言いたくもない名前を言うと、優花は驚き喜んでいるようだった。もしかして優花は櫂のファンなのか?
あんな奴のファンになるなんて兄として認めはしない。あいつは変態で最悪な人間なのだから。
「優花、櫂はオススメしない」
「えぇ、なんでー?かっこいいじゃん」
「確かに見た目はな。でも、あいつは皮を被った変態悪魔だ!」
俺の必死な訴えで、優花は「可愛いお兄ちゃんに、そんなことするなんて許せない!」と言ってくれた。
これぞ素晴らしき兄妹愛!
.
最初のコメントを投稿しよう!