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何でこんなことになったのだろう?
俺って不幸な男なんじゃないだろうか?
と思いながら、教卓の横に担任と並ぶその男を髪と眼鏡の隙間から睨み付けた。クラスの女子は騒音な悲鳴を上げて、男子は俺と違った意味(妬み)でその男を睨み付けている者もいた。
黒板にその男の名前が書かれると、やはり間違いなどなかった。間違いであってほしいと願っていても、誰一人その男を間違えるはずがないのだ。
「椎名櫂だ」
椎名櫂、どうやらモデルの櫂というのは本名だったらしい。芸名かと思っていた。
櫂は相手を拒絶するような冷めた視線で、教室にあるものを見下したように見る。それでも騒ぐ女には、そんな姿もかっこよく見えるのだろう。
「それじゃあ、椎名は吉川の後ろだ」
「吉川?」
「吉川、手を上げろ」
俺の後ろかよ…!?
此処まで俺は神様に見放されているのかと、自分の不運さを恨みながらもゆっくりと手を挙げた。櫂は一瞬驚いたような顔をして俺の後ろの席に向かってくる。
そりゃ、驚くか。こんな自分とは対称的な地味男がいるんだからさ。
「吉川、椎名に後で学校の案内してやれよ」
「……はい」
とは言ったが、絶対に逃げてやる。俺じゃなくても案内したい奴ら(女)がたくさんいるから。
そして、俺は櫂の視界に入らないような徹底的にネクラになると決意した。
――
昼休み、俺は教室から逃げるようにこの庭園に来た。この庭園は校舎から少し離れていて誰も寄り付かないから俺の憩いの場である。
今日も俺の憂鬱な気持ちとは逆に綺麗な澄み切った青の空や、穏やかな気持ち良い風が俺を癒してくれているように思えた。
「いただきます」
たった一人での昼食を始めた頃、俺の前に大きな影が聳え立った。
嫌な予感がする。
「おい、お前」
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