他愛もない嘘

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『すみません、センチュリーホールへはどうやって行けばいいんでしょうか?』 灰色のスーツを着た若い男が鷺に声を掛けた。就職の説明会だろうか。右手にはビジネスバック、左手には地図のような紙切れを握っている。紙切れは手汗で萎れ、くしゃくしゃだ。まだ時間に余裕があるのか焦っている様子はない。 『そこの角を右に曲がるとコンビニが見えますので、そのコンビニの手前を左折して、しばらく道なりに歩いて行くと、どんぐりって名前の公園があります。その公園を横切って、公園を抜けた最初の信号を渡れば見えてくると思いますよ。 鷺は丁寧に指差しながら、男が理解出来るようにゆっくりと説明した。 『ありがとうございました』 若い男は深々と頭を下げると言った通りの道を歩いて行った。 『クク、アイツ説明会は遅刻するだろうな』 男の影が見えなくなったことを確認すると、鷺はボソッと呟いた。
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