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ドクンドクンと早鐘を打つ心臓。
この人、不審者だ…!
でも足が動かない。
どうしよう。
するといきなり
プルルルルル
タイミングを計っていたように
握っていた携帯が鳴る。
急いで通話ボタンを押して耳に当てると
『今駅に着いたけど…どこに居る?』
高くもなく低くもない
聞き慣れたテナーの声が。
その途端
何かの呪縛から解かれたように
体が軽くなって
あたしはベンチから離れた。
目の前にあった
電柱に回り込んで
男から身を隠す。
「英輝助けて…変な人が…」
『え?零、どこに居るの!?』
「銀行の向かい側の駅前のベンチ…」
『銀行?うん、分かった』
一度そこで電話が切れた。
でも横目に男がついてくるのが見えて
あたしはまた固まってしまう。
「逃げないでよ」
ガシリと左手が掴まれ焦る。
「いやっ」
と、
男と反対側に見えていた車が迂回し
そして数メートル先に停まった。
―窓の中から見えたのは
紛れもなく英輝の姿だった。
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