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一度電話を切り
車を大きくUターンさせて停車する。
するとすぐに僕に気付いたのか
パタパタと走ってくる華奢な女性が…
その後ろにはゆっくりとついてくる
明らかに不審者と思われる男の姿。
「英輝っ」
よっぽど怖かったのか
零はドアを開くと
荒々しく乗り込んできた。
それに応じるように僕は
彼女がシートベルトをつけるのを確認すると
アクセルをふかして駅を後にした。
『ここまで来れば大丈夫かな』
もう男は追ってこれない。
五分くらい適当に走ったところで
人通りのない道路の端に
そっと車を停めた。
ハンドルから手を離すと
隣で小さく震える零の手を
ぎゅっと握りしめた。
彼女はやはり泣いていた。
大粒の涙を次から次へ溢し
声を圧し殺して泣いていた。
「彼氏と…別れちゃったぁ…」
ポツリと蚊の鳴くような声に
僕はまた胸が痛むのを感じてしまう。
彼氏、か。
だけど同時に彼女を泣かす
その彼氏とやらが憎くもなったりする。
…そう、嫉妬していた。
「好きだったのに…うわぁああ」
こんなに彼女に、
零に想われる男に。
だって僕は君の
本当の名前すら知らないのに。
『大丈夫だよ、泣かないで』
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