学校へ

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 一通りの身嗜みを終えると、さっぱりした表情で鏡を見る。寝癖となった黒髪を整え、黒い瞳で自分の顔をよくよく見る。余り意識はしてないけど、可愛いと言われる自分は……どうなんだろう?  うん。取り敢えず頷いてから部屋に戻る。パジャマを脱いで、クローゼットを開け、制服を取り出し久しぶりに袖を通す。  制服も色々あるが、雲母はこのセーラー服が好き。淡く鮮やかな水色が主体。基本的に水色が好きな雲母にとって、このセーラー服はお気に入りである。  着替えを終えれば、鏡の前でクルッと回り、チェックを欠かさない。身長は日本女性の平均身長で、スタイルには実はちょっぴり自信ある。同世代の友達からも羨ましいと言われる豊かな胸に細身の身体。  そんな自分の制服姿に、よし。と、小さく問題無いのを確認し机の前に移動する。そこには小さな飾り木箱が置かれ、それを開けた。  そこには一つの紫色が特徴的な菱形のペンダントが入っているのを確認すると、にっこりと優しく微笑みながら、制服で隠れるように首に通す。  本当は学校にはつけて行けないのは重々分かるけど、これだけは毎日身に付けていたかったのだ。 「ちょっと早かったかな」  何気無く登校準備を終えると、カーテンが開けられた窓辺から空を見上げる。燦々と照り付ける太陽だが、夏休みと違うのは蝉の鳴き声は無く、変わりに並ぶ住宅地。  ……帰って来たんだ。あの摩訶不思議な経験をした場所から。  そう思い、胸元にあるペンダントに触れる。これがあるから頑張れるかな。  所々に白い雲が気ままに浮いている青空。祖父の田舎までとはならないだろうが、今日も暑くなるんだろうと考えたところで、朝ごはんを食べようとリビングに移動した。 「お父さん、おはよう」 「ああ、おはよ」  既に椅子に座る父親は熱々のコーヒーが注がれたカップを片手に新聞を読んでいた。  短い黒髪に、少し背が高く、スーツ姿に似合う父親。ちょっと怖い顔をしているけど、怒られた事はあまりない。確かに厳格な一面もあるが、どちらと言えばお茶目でもある。
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