学校へ

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 顔を真っ赤にさせながら、ドリンクバーコーナーまで来てから呼吸を整えるために小さく息を吐ききる。  ……どこまで……はぅ。  制服で隠している胸元のペンダントに手を当てて、思い出すのは誠吾の温もり。優しく包み込まれ、キスを重ねた思い出。  ……キスはしたよ。うん。  あの月夜の思い出が今も目蓋を閉じれば……ほら。自分は小説で培ってきた豊か想像力と妄想力がある。だから、いつでもあの日の情景を頭に描ける。  ――ボン。更に頭から湯気が立ち上げる雲母は、恥ずかしくなっている自分に更にダメ出しの妄想を重ねて、グラス片手に動けなくなっていたりする。  ブンブンと首を左右に振って、なんとか正気に戻る為に呼吸を整えようとするが……  ……更に重なる緊急事態となる。  ――クククッ。  艶ある色っぽい声色が耳元に届く。甘くも色香ある女性の声に続き、身体全身の神経が研ぎ澄まされて行く。それは指先までが過敏になる不思議な感覚。  ……シャリン。続けて届く音に合わせて、雲母の肩に現れし人影。どこまでも自信に溢れた雰囲気と、絶女と呼ぶに相応しき、黄金色の長い髪を持つ妖狐様。  長き黄金色の髪は絹のようにさらさらとさせ、頭には同じ色の狐の耳、お尻からは立派なふさふささせる一本の尻尾がある美女は、その自慢の胸を強調させる白銀の着物姿で現れ。 「……うぬ? ……ここはどこじゃ?」  銀の錫杖を抱き抱えながら肩に現れた絶女の身長は十五センチと人形サイズである。  と、雲母は既にその発言とほぼ同時に走っていた。慌て走る行先は、トイレである。あわわとしながら、変化を遂げた身体は風の如く疾風で店内を駆ければ……  ――バタン!!  息を切らしながら逃げ込む雲母に「なんじゃ?」と肩から言葉が届く。 「はぁはぁ、く、クオさん……い、いきなり……出で来ちゃ駄目です」  荒れた息で肩にいる絶女に物申すが、クオと呼ばれた狐様はなんのことやらと首を軽く傾げるばかり。
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