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現代に生きる自分達にとって、ビルを見て怖がる人は居ない。逆に、都会に生まれた子供からすればこれが当たり前で、ビルが山々の変わりに思えるのであろうか?
そんな子供達が山々の大自然に触れる事を反対に恐れるのかも知れない。雲母の場合、祖父が田舎に住んでいたのもあり、緑豊かな山々などの自然を見て来たが……なんて考えていれば、三女はある場所に向かい歩み始めていた。
歩きながらも遊香が雲母に数々の質問を出して来た。勿論、話題は彼氏について。
……こ、これってもしかして。
不意にそう思った雲母の肩で、クオが周りの景色に目移りさせる中、雲母は遊香に聞いてみた。
「ねえユウちゃん? も、もしかして……ユウちゃんも出来たの?」
女の勘かも知れない。いや、何か話題をやたら振って来るのはもしかしてと感じたのだ。
「な、なんだよ、急に」
言葉を詰まらせながら遊香の可愛らしい表現が、ピクッと変化したのを見逃さない。
「だ、だって……なんか詳しく聞いて来るし、髪を染めたのはもしかしてって思って」
片手で握る鞄を両手で掴み、前にする遊香が「あはははっ」と笑って見せるが、ほんのり頬に赤みがある。
「ん~まあ~ね。皆を驚かせるつもりが、まさか雲母に彼氏が出来たなんて思わなくてね」
「や、やっぱり。ユウちゃんにも彼氏が??」
「まあね。大した奴じゃないよ?」
なんて言いつつ照れる彼女を見るのは、初めてかも知れない。美希も流石に驚きを隠せない。何せ、この夏休みに二人に彼氏が出来ていたのだから。
形勢逆転では無いが、やはり雲母も美希も興味を抱く話題に、今度は遊香が質問して来た事をそっくり返されながら数分歩いた結果……
遊香はしどろもどろになってしまう。顔を赤くさせながら、目的地である高層ビルに到着した。
全面ガラス貼りのビルは見た目も立派。雲母もこの場所に来れば、必ず上を見上げる。青空すら反射させるそのビルは、圧巻に尽きる。
無論、狐様も「ほ~お」と甘い口調に合わせてビルを見上げる。その聳え立つ建物に感心すら覚えているのだ。
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