その1

1/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ

その1

彼女はその手紙を、だれも使わない時代遅れのガラスの灰皿に入れると火をつけた。メラメラとめくれあがる文字が不快だった。 「お姉ちゃんは、かなちゃんが元気な・・・」 文字は一瞬で黒い灰になった。 手紙の灰の残骸を見届けて、携帯メールを打った。 「お姉ちゃん、手紙ありがとう。嬉しかったよ」 ぞわっと背筋が凍る感覚のその文章をあの女のアドレスに送信した。どこまで脳天気なんだろう?私のことなんて一つも理解していないで、姉貴ぶるのが嫌なことぐらい気付かぬのだ。 窓の外を伝う雨水に、憎しみと怒りの自分の顔がぼわっと映り込んで、その表情に驚いた。 こんな恐ろしい表情にさせる姉が憎かった。 結婚という名目で、このぞっとする家の呪縛から独り逃げた姉の行為は裏切りそのもであった。それまで、姉とこの家の呪縛から、互いをかばい合い過ごしてきたのに!怒りで肩が震える。 両親を事故で亡くし、二人を引き取った支配者の祖母が死んだとき、彼女たちはは涙ひとつこぼさずに、ただ無表情に互いを抱き合っていた。呪縛から解き放たれたという想いにとまどっていたのいだ。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!