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男はすぐに口元を拭うと、痣が出来始めている右頬をおさえる。すれ違う不良達は息は上がっていたが、歩く速さからして怪我をしているようには見えなかった。
金髪に朱色の瞳をした、優しげな雰囲気を持つ男だ。右耳には赤色のピアスをつけている。ネクタイは茶色、エンブレムは剣士――地術学部の剣士科か。
「いってて……君、助けてくれてありがとう。あと、ハンカチも」
そう言って、彼は3Pに向かいお礼を言う。後に出てきた私は少し気まずく後ろに一歩下がった。
「どういたしましてー! でもキミ変。いっぱい殴られてたのに、どうして殴り返さない? なんでやり返さない?」
「おい3P……」
3Pの言葉に耐えかねて。私に言葉を発した。
「先輩、怒ってる?」
「この人にはこの人の事情がある。我々が入り込むべきではない。……そうだ、入り込むべきではない。そのハンカチはくれてやる」
私はそう言って男に背を向けて歩き始める。3Pが私の後を追うように駆け寄ってきた。
ちなみに、そのピアス男が先輩だと知るのはまだ先の話だ。
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