【第一話】

10/13
前へ
/19ページ
次へ
 男はすぐに口元を拭うと、痣が出来始めている右頬をおさえる。すれ違う不良達は息は上がっていたが、歩く速さからして怪我をしているようには見えなかった。  金髪に朱色の瞳をした、優しげな雰囲気を持つ男だ。右耳には赤色のピアスをつけている。ネクタイは茶色、エンブレムは剣士――地術学部の剣士科か。 「いってて……君、助けてくれてありがとう。あと、ハンカチも」  そう言って、彼は3Pに向かいお礼を言う。後に出てきた私は少し気まずく後ろに一歩下がった。 「どういたしましてー! でもキミ変。いっぱい殴られてたのに、どうして殴り返さない? なんでやり返さない?」 「おい3P……」  3Pの言葉に耐えかねて。私に言葉を発した。 「先輩、怒ってる?」 「この人にはこの人の事情がある。我々が入り込むべきではない。……そうだ、入り込むべきではない。そのハンカチはくれてやる」  私はそう言って男に背を向けて歩き始める。3Pが私の後を追うように駆け寄ってきた。  ちなみに、そのピアス男が先輩だと知るのはまだ先の話だ。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加