大丈夫?

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私は蘇った苦い記憶に蓋をすると、テーブルの上の資料を集め始めた。 「ごめん、杉田。後は私がやるからもう戻って。今日はありがとう」 杉田の方は見ずに机に置かれたA4の紙の束をまとめていると、不意に背中に重みがかかった。 胸元には、質の良いダークグレーのスーツが見える。 一瞬、何が起きたのか理解が遅れる。 だけど、私のものではないムスクの匂いが鼻先を掠め、すぐに杉田に背後から抱きしめられているんだと分かった。 「―――ちょっ」 「大野はいつまで一人で頑張るつもりなの?」 押し殺した様な、少し掠れた声に、思わず抗議の声が止まる。 「瀬戸以外の男はカスみたいに思ってるわけ?」 突然、今しがた思い出したばかりの元彼の名前に、体が強張るのが分かった。 今更好きでも何でもないけど、名前を聞くと反応してしまうのは、もう条件反射みたいなものだと思う。 だけど、その刹那―――。
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