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外はもう暗い。街中であればこそ明かりもあるが、墓所となるとそうもいかないだろう。それをこの女性は一人で、そこに行こうというのだろうか。夏も過ぎたこの肌寒い季節に、肝試しをしようなどというわけではないだろうに。
「本当は明るい時間帯に行く予定だったんですが、どうも仕事が重なってしまって。でも、他の日には中々行けませんし……今日、行きたいですから」
「はあ……」
今日は、何かの祭日だっただろうか。しかし、この時期に墓が関連する祭日があるとは、聞いた事がない。お盆はもう何ヶ月も前だし、正月もまだ先だ。
とすると。
――命日、だろう。
嫌な言葉だ。《命の日》と書く癖に、その実誰かしらが死した日なのだから、随分な皮肉だ。
そうは思えど、女性の言葉に答えない理由はない。幸い、というべきか。当然、というべきか。僕は彼女が探しているであろう墓所の場所を知っている。この付近となると、一箇所しかない。
「じゃあ、そうですね。口頭で説明するのは難しいので、ご案内しましょうか」
「え? でも、流石にそんなにしてもらうわけには……」
「いえいえ、気にしないで下さい。どうせ暇ですし――そろそろ、帰ろうと思っていたところなんでね」
墓所は街外れにあった。
元々都会とは言い難い街の外れ。街頭などは数十メートル置きにしか立てられておらず、そこに至るには整備されていない砂利道を行かなければならない。
今はその道を並んで歩いているところだった。
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