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彼女が話していた知り合いは、僕だった。そして僕は、もう死んでいた。今日がその、命日だった。
嘘を吐き続けていた代償だろうか、それとも罰だろうか。僕は死んだ後、当て所もなく彷徨う事しか出来ない幽霊になってしまったのだ。
「嘘、嘘……。だったらどうして、私をここまで案内してくれたの?」
それはただ、彼女が心配だったから。こんな暗い夜道を一人で歩かせたくないと、そう思ったから。
そして――彼女の腕の中へ帰りたいと、思ってしまったから。
「ああ、やっぱり君は僕の嘘を余すところなく明かしてくれるんだね。こんなにまでなって嘘を吐く事しか出来ない僕を、明かしてくれるんだね。昔からそうだ、僕のつまらない嘘を明かすのは、君の役目だった」
彼女の言葉によると、明かすまでもない冗談のような嘘でしかなかったのかもしれないが。
それでも彼女はいつも、僕の嘘を明らかにしてくれていた。誰も居ない時、居ない場所で、困ったように微笑んで、
『そんなに守ってくれなくても、大丈夫だから。私はもう、貴方の嘘に守られないといけないほど、弱くないのよ?』
ぎゅっと、抱きしめてくれていた。
けれど僕は、嘘を吐く事を止めなかった。何も持っていない僕はそうする事でしか彼女を守れないと、彼女と共に居られないと、そう思っていたのだ。
そして結局、今の今まで……死して尚、この有様だ。嘘によって、彼女と再会する事が出来た。嘘の嘘の嘘の塊として彷徨っていたからこそ、もう一度彼女に出会う事が出来た。結果として――彼女に涙を流させてしまった。
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