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これまでは守る事が出来ていたはずなのに、最後の最後に僕が傷付けたのだ。
「もう、大丈夫だから……。貴方が居なくても、頑張れるから。嘘は、もうお終いにして……待っていて。私が死んだ時に、また会いましょう?」
「うん、そうだな……。君を心配するあまりこんな嘘を吐いて、君を傷付けてしまった僕は、もう消えるとしよう」
彼女の腕の中に、帰って来れた事だし。来れ以上僕が彼女に何かをしてあげる事も、守ってあげる事も、出来ないんだし。
「ごめんね。僕はいつも、嘘を吐く事でしか君を守る事が出来なかった。出来れば最後の最後まで、君と一緒に居たかったけど、僕は死んでしまって……。ああ、どうしてだろうな、どうして僕は死んでしまったんだろうな。まだまだ、遣り残した事があるのに」
死の瞬間を、僕は思い出す事が出来ない。
その答えを、彼女はくれた。
「私を庇って、車に轢かれたのよ。最後の最後まで……、私の守ってくれたのよ」
「そうか」
だったら、良い。嘘でしか守れなかった僕が、ようやく行動で彼女を守れたのなら、それで良い。
「じゃあ、そうだな。僕は、帰るよ。帰ってきたよ、君の腕の中に。だから、言わせて欲しい――ただいま」
「うん、お帰りなさい――」
穏やかなまどろみが僕の意識を朦朧させる。
嘘を明かされ、彼女の腕に抱かれたいつもの温もりに、僕は意識を落とし込んだのだった。
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