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ため息を繰り返す永遠子に、気持ちを切り替えさせようと満は頭を撫で、
「とりあえず今は飯食わないか?せっかくワコの好きな、俺特製あんかけ炒飯作ったんだからさ。」
永遠子と同じ歳の満だったが、大学を卒業後、やっぱり料理人になると言いだし専門学校へ。社会人の永遠子とは違い未だに学生の身分である。
「…そうだね。食べよっか。」
ようやくご飯の方に意識が向いたのか、いい匂いに思わずお腹が鳴った。
「炒飯にワンタンスープ、ニラレバ。杏仁豆腐もご用意してありますよ、お客様。」
シェフ気取りの満に永遠子も笑顔になる。
「満のご飯大好きよ。みーんな美味しいし、レパートリーも沢山あるし。」
手を合わせていただきますを言い、炒飯を一口食べると、先程とは違ううなりが永遠子から漏れる。
「ん~、美味しいっ!」
「ワコがいつも旨そうに食ってくれるから、俺も作り甲斐あるよ」
笑いながら満も食べ始める。
いつもそうだ。
仕事で落ち込んでいたり苛々していても、満の料理が永遠子を癒してくれる。
自らを平凡と思っている永遠子にとって満は眩しいくらいの才能を持っている、それが満への憧れや愛情になっていた。
「--例の作文さ、上に報告すんの待った方がいいかもな。」
夕食後、片付けを終えてまどろんでいると満が話を戻してきた。
「?……なんで?」
「気になったんだよ。…なんでその子はこんな作文を書いたんだろう。」
「だから、私をからかってるんじゃ…」
「普通に考えたら内容からいって、上に報告されて注意を受ける。そんなこと、いくら中学生だって分かるだろ。だからもし、ワコをからかってるんじゃないとしたら……」
「あの作文に書いたのは本気ってこと?本当に殺人を?」
「うん、本気かもしれない。可能性は低いだろうけど。で、本気だったとしたら--何故それをわざわざ伝えてきたんだろう?」
どうやら満は、永遠子より余程真面目にあの作文のことを考えていたようだ。
面倒な事はとりあえず報告すればいい、と思っていた永遠子は自分の浅はかさに恥ずかしくなった。
「………私に知って欲しかった?もしかして!止めて欲しいのかも!」
中学生の衝動でどこまでの殺意があるのか、はたまた本気かどうかもわからないが、これは永遠子への相談なのではないか。形は変わっているが。
満の助言もあって、永遠子は自分の考えに確信を持った。
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