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己を含む周囲に対しマイナスにしか働かない言技は、そのレッテルを貼られる。“桜ノ上”である大介の場合はきちんと対応すれば日常生活に支障はないが、下がれば下がるほどそうはいかなくなる。特に“桜ノ下”に至っては、生存していることすら稀と言われている。
「ずけずけとよくそんなこと聞けるな」
「部活動とはいえジャーナリストのつもりだよ。気を悪くしたならごめん」
「いや、別にいいけどさ」
他者を燃やしてしまうかもしれないという危険性は消え去ったわけではないが、大介は桜ランクのトラウマを乗り越えることができた。だからこそ、その質問に答えることができる。
「そうだよ。俺は桜ランクだ。危険に身を投じると発火する部分は復言うんぬんに関係なく治っていない。でも、俺には危険が見えるからいきなり燃えたりはしないよ」
「危険が見える?」
「ああ。よく警察が事件現場とかで使ってる“KEEP OUT”って書かれた黄色いテープがあるだろ? 近い将来危険になる箇所にはそのテープが見えるんだよ」
「へー。便利だね」
ささっと天吾が素早くメモを取ったところで、大介のポケットから初期設定のままの味気ない着信音が鳴った。「ちょっと悪いな」と断りを入れてベッドから降りると、天吾と少し距離を取ってから折りたたみ式の携帯電話を開く。番号は非通知であった。
「もしもし?」
「あー、瀬野か? 俺だ」
「誰だよ?」
「天才的な頭脳でギャングを追い込んだ探偵、芦長十一(アシナガトイチ)だ」
大介は眉を潜めて記憶の中を探る。すると、廃工場での戦闘中に視界の端でチラリと見た、くたびれたイメージの男が思い浮かんだ。
「ああ。きずなから聞いてるよ。硯川の誘拐事件を辿って居場所を突き止めてくれたのもアンタなんだってな。ありがとう」
「そんな昔のことはどうでもいい」芦長は言う。「今から駅の西出口近くの“キャットウォーク”という喫茶店に来れないか?」
「随分と急だな」
「それだけ急ぎの用事があるということだ。お前にも来るメリットはある。待っているぞ」
一方的に電話を切られ、大介は難しい顔で後頭部を掻いた。そうしてから、天吾に向き直る。
「悪い剣岳、用事ができた。もう行かないと」
「うん。ボクとしてはもう満足だよ。行ってらっしゃい」
「運んでくれてありがとな。それじゃ」
そうして、飛火夏虫の取材は終了を迎えることとなった。
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