―其ノ壱―

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 ◇ 「やっぱり、告白はまだ早いんじゃない?」  イチゴパフェを一口食べてから、育がそう告げた。照子は面目なさそうに顔を下に向ける。 「まずは照れ屋なところを直さないと、どうしようもないかな」 「それならいい案があるよ!」きずなが席を立ち、人差し指をピンと立てる。「ここでバイトしてみたらどう?」 「そっ、そそそそんなの絶対無理ですっ! 普通の喫茶店ならまだしも、メイド喫茶だなんて絶っ対無理ですよっ!」  彼女達が今現在飲み食いしている店は、照子の言う通りメイド喫茶である。そこは基本的に女性の来るイメージのない場所であり、他の客は男ばかり。それでもここに来ているのには、勿論それなりの理由がある。 「えー。大歓迎にゃのにぃー」  銀色のお盆を胸に抱えながら、メイド服の店員が残念そうに眉を下げた。頭には猫耳が生えており、フリフリなスカートの中からは尻尾も飛び出している。  友達が働いているから。それがメイド喫茶に来る実にわかりやすい理由である。 「働かにゃいかい照子にゃん。色々教えてあげちゃうよーん」 「むっ、無理ですっ! 恥ずかしいです!」 「きっと人気出るのにぃ。勿体にゃーい。あ、お客様がお呼びだ。ちょっと待っててねー」  飛び跳ねるように移動し、メイド服の彼女は中年の男性客の前へやってきた。 「お呼びですかにゃご主人様?」 「えっと、このファンシー冷え冷えウォーターにラブラブパワーを入れてほしいんだけど」  ファンシー冷え冷えウォーター。ただの水にメイドのラブラブパワーなるものを一度だけ注入してもらえるメニュー。千二百円。 「かしこまりましたご主人様! それじゃ、いっきますよーん」  変な歌と踊りでラブラブパワーなるものをただの水にそそぎ込むと、彼女は冷めた目できずな達の元へ戻ってきた。 「あー、マジキモい」 「素が出てるよ」 「別に客少ないしいいよ。なーにがファンシー冷え冷えウォーターだ。水道水だっつーの」  素に戻り毒を吐く彼女の頭からは、いつの間にか猫耳が消えていた。同じく尻尾も消えている。 「あ、お客さんきたわよ」 「お帰りなさいませご主人様ぁ」
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