―其ノ壱―

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「でも、そんな知り合いが都合よくいたりなんかしないでしょ?」 「甘いなぁ叶ちゃんは。そこら中に都合よく知り合いがいるのが、友達盛り沢山の綱刈きずなちゃんなんだよ」  得意げにきずなが指さした先にいたのは、四人用のボックス席を一人で占領し、コーヒーを啜っている一人の男。  不衛生な頭に剃り残した髭。テーブルの上でノートパソコンを開いており、灰皿には煙草の吸い殻が二本ほど転がっている。  探偵・芦長十一。メイド喫茶“キャットウォーク”にて、瀬野大介と待ち合わせ中。  カタカタとキーボードを叩く最中、視線を感じて芦長は目を向かいの座席に移す。すると、そこにはいつの間にか照子と育が座っていた。 「お前ら、一体いつからそこに」 「まーまー落ち着いて落ち着いて」  芦長を宥めながら、きずなが探偵の隣に座る。残るもう一方を叶が封鎖し、芦長は逃げ道を完全に失った。 「よかったね名探偵。ハーレムだよー」 「フン、ガキに興味はない。悪いが俺は仕事中だ。とっとと自分の席へ帰れ」 「それにしても意外ですね。探偵さんがメイド好きだったなんて」  叶が満面の笑顔で言い放つ。本人にそのつもりはないのだろうが、タイミング的に脅し材料として弱みを取り上げたように思えなくもない。 「だ、断じて違うぞ! 地図で見る限りでは普通の喫茶店に思えたから待ち合わせ場所に指定し、来てみたらメイド喫茶だっただけだ!」 「苦しいいいわけだわ」 「好きなら好きでいいじゃないですか」 「おいやめろ。俺を変態探偵キャラに仕立て上げるつもりか!」 「それが嫌なら、協力してもらうよあしながおじさん」 「おじさんじゃない。まだ俺は二十九歳だ」 「それじゃあ、二十九歳のあしながお兄さん」きずなは芦長と肩を組み、脅す。「恋バナの一つでも、参考までに聞かせてもらいましょーか」
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