とんでもない始まり方

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「覚えてないのぉ? ちょーショックなんですけど」  下着だけ身につけたゆる~い喋り方をする男がタバコを咥える。 「昨日はあんなにどろっどろに愛し合ったのにぃ」 「愛し、合った?」  まったく覚えてない。  つか、全然体が辛くない。  本当に、やったんだろうか。 「あー。その目は疑ってるなぁ。はい、しょーこ」  見せられたのはスマホの画面。  起動した動画に、自分。  そして下半身…… 『あっ、や、やめんなっ、もっと』 『みいちゃんたら、おねだり? もっとなぁに? 何が欲しいの? どうして欲しいのぉ?』 『もっとおくま』 「うわぁーっ! やめろ! とめろ!」 「そぅ? つまんなぁいの」  俺が騒ぐと、男は口を尖らせて動画をとめた。 「なんでそんなもの……」 「初回えちは記念に撮るようにしてんの。みいちゃんの体がたいして辛くないのは、一回きりだったし、激しくしなかったから。オレってばちょー紳士なのにぃ」 「ごめん」  俺が項垂れると、男は俺の頭を撫でた。 「みいちゃんてばいい子過ぎぃ。記憶ないならもっと疑えばいーのに。はい、これ見てー」  もう一度、スマホを差し出される。 「こいつの酒、呑んだでしょ?」  そこに写っていたのは、バーで隣に居た若い男だった。  料理の話で盛り上がり、奢りだとグラスを差し出されたのは覚えている。 「それに入ってたんだよ、ク・ス・リ」 「薬?」 「そ。泥酔したみたいな状態になるうえに、キモチイイことしたくなっちゃうクスリ」  確かに、あの辺りから記憶があやふやだった。 「こいつ前科あんの。だから張ってたんだぁ。そしたらみいちゃんが引っ掛かっちゃって。強姦未遂の現行犯で逮捕しちゃった」 「たい、ほ?」 「オレ、おまわりさんよぅ。警視庁刑事部捜査一課の、けーじ。しょーこ、その2ね」  スマホが、警察手帳に持ち替えられ、翳される。  茶髪は地毛らしい。目の前の男が、真面目な顔をして、警官の制服で写真におさまっていた。
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