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「いちおー、店の裏で事に及ぼうとしたから、その時点で取り押さえたけど、みいちゃん、ぐでんぐでんでさ、すんごい色っぽかったし、オレにとっては据え膳でさぁ」
「えっと、桜庭さんはゲイなの、ですか」
「カミングアウト済のねぇ」
短くなったタバコを、桜庭さん――『桜庭 多門』と手帳に明記されていた――は灰皿で押し潰し、
「あいつは所轄の奴らに押し付けて、被害者は逃げちゃったことにしてオレがお持ち帰りしたの。みいちゃんとこに警察が行くことはないと思うけど、訴えるっつうなら話は別よ? 強姦は未遂でも親告出来っから」
刑事の顔になった。
「一応、合意の上って証拠でムービーに撮ったけど、本人が覚えてない場合証拠としては無効なわけ。クスリいれたあいつは勿論だけど、やっちゃったオレも同罪ってこと。解る?」
「え?」
「オレのことも、訴えていいよって言ってんの。慌てっぷりがちょー可愛かったから、からかっちゃったけどね。こうしてちゃんと説明するつもりだったし、訴えられてもいいっていう覚悟もあるよ」
ゆるっゆるなのか、身持ちがかたいのか、掴めない人だ。
ああでも、身持ちがかたくないと警察官なんてなろうと思わないかな。
「みいちゃん?」
何も言わない俺に焦れたのか、桜庭さんはこちらの顔を覗き込んできた。
「合意の上、行為に至りました。桜庭さんに非はありません」
少し考えて言い放った言葉に、桜庭さんは瞠目する。
「いいの?」
「いいです。俺の迂闊さも原因だし。桜庭さん、悪戯っ子だけど、いい人みたいだし」
俺の答えに、桜庭さんは苦笑を浮かべた。
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