みいちゃんと桜庭さん

『馬鹿』と『阿呆』はデフォルトらしい

「なにそれ。お前、馬鹿なの？」
　恋人が出来た経緯を相方に話したら、罵倒された。
「お持ち帰りされて美味しく頂かれて、付き合うとか阿呆なの？　騙されてるよそれ、完璧」
「騙されてねぇよ」
「騙されてるね。そいつ絶対他に相手居るって。お前が浮気だって」
　桜庭さんはそんな人間じゃない。
　言い返そうとしたら、ケータイが震えた。
　画面を見ると、『桜庭多門』と表示されている。
　その場から少し離れ、通話ボタンを押した。
「もしもし？」
『みいちゃん、今だいじょぶ？』
「はい、大丈夫ですよ」
『突然で申し訳ないんだけど、仮眠、みいちゃんとこでとらせてもらえない？』
「仮眠？」
『ちょーばがみいちゃんの住んでるとこで立っててぇ、出向してんのね。一旦解散になったんだけど、今から帰るのめんどーだから、みいちゃんち借りれないかなぁと思って』
　都合悪い？　と桜庭さんが聞いてくる。
「えっと」
『帰るのめんどーって言うのは口実で、実はみいちゃんに逢いたいだけだったりするんだけどぉ、つごー悪いなら』
　俺だって逢いたい。
　相方と言い争った直後だから尚更。
「来て下さい。声だけじゃ、やだ」
『みいちゃん、なんかあった？』
「いいから早く来て！」
『ん、りょーかい』
　言って気が付く。
　俺、今凄く桜庭さんに甘えたいんだ。
　あの人が俺の、俺だけのモノだって実感したい。