仲間はずれの鴉

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声が聞こえた。目を薄く開くと、龍人のすぐ正面に赤い頭髪の食糧が立っていた。 「こっちの気持ちも考えないで勝手に突っ走らないで! 何がごめんなさいよ? ありがとうって何よ!? 私は、あんたの最期を看取りにここまで追いかけてきたわけじゃない!!」 息を切らすほどに声を荒げる彼女――緋村は龍人を睨みつけて、涙を流していた。 「どうしてあんたは、無茶ばかりするのよ。柳生先輩と戦った時も悪魔が現れた時も、それに今も……。自分の命を大切にしてよ。あんたが倒れる度にこっちは息が止まりそうになるのよ!」 怒った声は時々詰まる。嗚咽が出そうなのを我慢しているからだ。 「少しは頼ってよ。助けてって言いなさいよ。あんたがSOSを出してくれないと、何もしてあげられないじゃない。」 『――手を貸さなくても、あんたは大丈夫なのね?』 龍人の家でそう訊ねた時、彼は大丈夫だと答えた。その意味もわかっていないのに、それでなくても三年も前から重大な問題を抱えていたというのに、彼は大丈夫だと言った。 緋村が言ったように、龍人はいつだって起こった問題をひとりの力で解決しようとしていた。それは龍人が自分の責任で請け負ったもので他の人間を巻き込んではいけないと思ったから、というのは表向きの建前。本当の理由は龍人の中に潜む怪物――肝喰(チェルノボーグ)が何をきっかけに表に出てしまうかわからなかったからだ。 責任感が強いというのとは違う。龍人が助けを求めないのは自分の秘密を守る為。それと、自暴自棄になっていたから。怪物を抱える自分は少々命を粗末にしても問題ない、死んでも悲しむ人はいない……そんな風に考えていたからだ。 緋村は龍人の気持ちをなんとなく理解していた。かつて自分も父親を事故で失った時に似たようなことを思ったから。 「肝喰(チェルノボーグ)が危険だっていうのはわかるし、あんたのおじいさんや柳生先輩があんたを殺そうとしていることも、あんたがそれを納得しているのも色々考えて選んだ選択なんだって理解できる。納得はできないけどきっとそれは正しくて、最適解なんだろうって思う。でも、私には正しさとか最適とか、そんなのどうだっていいの! ただ、」 そこで一度息を吸い込んでから彼女は言う。 「私はただ、あんたに生きてほしい。それだけなの」 それが、緋村茜の正直な気持ち。 「私のエゴをあんたに押し付ける。今日で一生の別れだなんて絶対に嫌。だってもうすぐ夏休みよ。それが終われば体育祭に文化祭、冬のイベントだってある。思い出を作る機会が色々あるのに、そこにあんたがいないのは、その、凄く寂しい」 制服の袖で目に溜まる涙を拭いつつ彼女は言う。 「だからあんたが生きるのを諦めても、私が死なせない。死なせてやらない。私が満足するまで傍にいないと許さない」 腕を下ろした彼女は、再び瞳に力を宿して、 「私の為に生きて。一緒にいるって『約束』して」 そう言った。
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