5453人が本棚に入れています
本棚に追加
/864ページ
――――――――
ぱらぱらとコンクリートが割れてできた破片や粉塵が舞い落ちる中、柳生はゆっくりと身体を起こす。
足元に視線を落とす。その先には仰向けに倒れるライラの姿があった。刀で貫いた肩は衝突の勢いもあって破裂したみたいな深い傷になっている。また出血も酷い。そんな怪我をおったからか彼女は人の姿に戻っていた。呼吸も荒く、起き上がってくる気配もないライラ。とりあえず、戦える様子ではなさそうだ。
「……私の、負け、のようですわ」
ライラが儚げに笑う。弱々しい声のまま彼女は言う。
「どうしてでしょうね。負けたと言うのに不思議と悔しくはありませんわ。あなたから受けた最後の一撃があまりに美しかったから、心が満足してしまったのかもしれませんわ。ふふっ」
「………」
「負けた相手があなたで良かった。これなら未練なく、亡くなった祖母に会いに行けます」
ライラの潤んだ瞳が今にも閉じようとしている。小さかった話し声もさらに小さくなる。
「……ああ。時間が、来てしまったようですわ。さようなら、美しい『鴉』さん」
そこで声が止まった。ライラはそっと目を閉じて、それっきり動かなかった……
(……この女。一人で何やってンだ?)
柳生の顔には九〇パーセントの疑念と一〇パーセントの苛立ちがあるだけだった。憐みや後悔といった感情は一切ない。
とりあえず勝手に眠ろうとしやがるので魔術の電気を浴びせて叩き起こすことにした。ライラには体内に入った魔力を自分のものにする能力があるのだが、重度の負傷のせいでその能力が機能しなくなっていた。
「ひうっ! ……な、何をしますの!?」
「それはこっちの台詞だ。そんなヘタクソな死んだふりで見逃がしてもらえると思ったか?」
ライラが死ぬ。そんなことはありえない。確かにライラの肩の傷は出血量も多いので重傷に見える。だが生命維持を脅かすような臓器を傷つけたわけではないし、血も肩を貫いた直後に傷口を焼いて塞いだ。出血は肩を貫いた瞬間だけで今は一滴も流れていない。
彼女がどれほど演技が上手くても傷を負わせ、治療まで行った柳生の目を欺くことは不可能だった。……尤も、ライラ本人は傷が塞がっていることを知らなかったので本気で死を覚悟していたからこそ起こした行動だったりするわけだが、柳生はそれに気づいていない。
「最初にした質問、まだ答えてねェだろうが。それを聞くまで眠らせねェぞ」
「質問……。ロッカス氏がどこにいるか、でしたか。さて、あの方はどこにいらっしゃるのでしょうね?」
「……オイオイ冗談だろう。負けたっていうのにまだ口を割らない気か?」
「私が負けたからといって素直に答える道理はないかと」
小悪魔チックに笑うばかりで答える様子はない。
「だったら仕方ねェ。テメェの身体に直接聞くまでだ」
最初のコメントを投稿しよう!