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最初、目についたのは廊下の端にギュウギュウに寄って、酷く怯えた顔をする生徒達。
次に目についたのは、生徒の何人かが悲鳴を上げたその原因だった。
「よぉ。ここがテメェのクラスだったか」
向こうから廊下の真ん中を堂々と歩いてくるのは身長二メートル近くある長身の男。
彼の名は柳生一心という。
龍人の義兄弟であり、同じ治安維持委員会の仲間であり……龍人と同じ徳川将軍家に遣えていた『鴉』一族の末裔だ。
剣呑な瞳を光らせ、わずかに口角を釣り上げるその表情は、周りから見ればとても凶悪そうに見えるかもしれない。しかし、これは敵意を向けているのではなく、彼の自然な表情なのだ。
「あ、柳兄。今日はまたずいぶん早いね」
「ああ。なんか水道の調子が悪いとかで学校が昼過ぎに終わってよ。んで、その足でこっちに来たんだ」
「ふぅん。そうだったんだ」
「ところで、ここの売店はどこにあるんだ? 飯を買いたくてもう三〇分近く探し回ってるのに全然見つからねぇンだけどよ」
「売店? それなら……」
こっち、と龍人は柳生が来た反対側の方向に足を踏み出す。
それと同時に、
「(……やっぱり、そうだよな)」
龍人の耳は、周囲の生徒達のひそひそ声をいくつもキャッチする。
「(……あの大男って、この前の闘論会に乱入して、闘技場をメチャクチャにしたヤツだろ? そんなヤツと九能龍人が親しげに話してるぞ)」
「(……やっぱり噂は本当だったんだ。あの男は、九能龍人が雇った傭兵崩れのボディガードなんだ)」
「(……気を付けて。九能の機嫌を損なうと、あの大男に酷い目に合わされるらしいから。それが証拠に、天河崎先生を狙っていたヴェルバータさんや、九能の対戦相手だった扇桐くんは大怪我を負って入院したでしょ? 一週間前に新聞部の部長が階段から落ちて右腕を骨折したのも、あの二人のせいじゃないかって話だし……)」
「(……オレ部活の先輩から聞いたんだけど、この前の闘論会の件で、理事長が不問にしただろ? あれってあのボディーガードに脅されたかららしいぞ。もし俺達を魔導警察に売れば、お前のとこの生徒の命はないぞって)」
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