5454人が本棚に入れています
本棚に追加
「(……私は例の神隠し事件の犯人はあの二人がじゃないかって聞いた。その時はまさかと思ったけど、やっぱりそうなんじゃ……)」
……ああまただ、と龍人は泣きたくなるような心境の中で悲しみに暮れていた。
このような噂が立つようになったのは柳生が治安維持委員会のメンバーに加わり、この鳳城魔術学園に出入りするようになってからだ。
校舎の中で何気なく話しているところを通りがかった二年の男子生徒に見られ、そこからおかしな噂が全校生徒に伝播したのだ。編入当初から囁かれていた悪い噂と合わさり、紆余曲折してさらに悪化してしまっていた。
違うと訴えようとしても、周りを見れば必ず全員が目を逸らす。『目を合わせるな』、『合わせたら病院送りだぞ』密やかに囁かれるが、周りが静かなせいで全部筒抜けだった。
人の噂も七十五日。
果たして本当にそのことわざ通りになるのだろうか。
「おい。早く売店に案内しろよ。腹減ってんだからさ」
「……うん。じゃあ緋村さん達は先に行っててください。僕は柳兄を売店に案内してからAS室に行きますから」
周囲から浴びせられる自分を恐れる目と哀愁を背負いこんで、龍人は屈強なボディーガードを連れて売店へと赴いた。
────────
鳳城魔術学園の西校舎一階には治安維持委員会室──通称AS室が存在する。大きさは一般教室の半分ほど。
資料棚や長机が鎮座しているので、自由に動ける広さはさらにその半分ほどしかない。
しかし、資料棚を横にスライドさせれば地下へと繋がる階段が現れ、そこを降りると、一般教室の一〇倍近い面積がある訓練場が広がっていた。
現在、治安維持委員会のメンバーは複数の自動甲冑兵を相手に模擬戦を行っていた。
「千秋は先輩達と右から来る自動甲冑兵を相手して。柚稀は私と正面にいるヤツを。援護射撃お願い!」
緋村茜が指示を飛ばすと、それぞれが迅速に動く。
刀身が炎に包まれた木刀のような魔武器を手に、緋村は正面から来る自動甲冑兵に全力に近いスピードで接近する。
相手との距離が五メートルを切ったその時、彼女の後ろを追走していた柚稀が横に出て、二丁拳銃を突き出すように構え、引き金を引く。
最初のコメントを投稿しよう!