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得点は九三点。前回より二点上がっています、などという文字が続けて浮かび上がる。
よし! と小さく喜ふメンバー達。しかしその中でひとり、緋村茜だけは違った。すぐに上空に浮かぶ文字から目を逸らし、顔を背けると下唇を噛んだ。
彼女は納得していなかった。自分が思っていたより得点が低かったからではない。例えこれが一〇〇点だったとしても彼女の気持ちはきっと変わらないだろう。
機械が出した評価なんて何の意味もない。人の力や技量は、そんなものでは計り切れない。
それを裏付ける根拠が、すぐ近くにあった。
「緋村さん。お疲れ様でした」
はい、とタオルと給水ボトルを渡してきたのは九能龍人だった。今のミッション終了と同時に、彼はその二つを全員分取ってきて、ひとりひとり手渡しして回っていた。
龍人も"一応"今のに参加していたはずなのだが、彼の表情はいつもと変わらない。疲労感も達成感も、まるでなかった。
「……? どうかしましたか?」
「ううん。別に何も」
素っ気なく言って、緋村はタオルとボトルを受け取った。龍人は不思議そうにしていたが、すぐに先輩達のところに同じものを渡しに行った。
首筋を拭いながら彼の後姿を眺めていると、左右から声が飛んでくる。
「おや? おやおやおやぁー? 何やらリュウくんに熱ぅーい視線を送ってるねぇ茜ちゃーん」
「気になっちまう感じか? クノッちが気になってしょうがない感じか? おいおいそこンとこどうなんだ。正直に吐いちまおうぜい」
「……ホント、そのネタいつまで引っ張る気?」
いい加減聞き飽きたんだけどとぼやき、緋村はタオルで二人の顔を叩く。
これまでにもこのデコボココンビに同じような事を何度も言われてきた。その度に緋村は違うと否定してきたが、何十回と繰り返していくうちにまともに取り合っても無駄だと感じ取り、ここしばらくはまともに相手にしないようにしている。
九能龍人に対してそんな感情は全然まったくこれっぽっちも持ち合わせていないのに、この二人はどこを見てそう思い込んだのか。謎である。
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