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人の噂も七十五日、なんてことわざがあるけれど、あれって何で七十五日なんだろう。何か理由でもあるのかな?
頬杖を突き、茫然と前を向く九能龍人は、ふと、そんな事を考えていた。
別に古来から伝わっている言葉にケチを付けようと思っている訳ではなく、ただ何となく思っただけなのだが、ことわざ博士でもない彼の頭にそんな疑問が過ったのはここ最近の周りの環境のせいかもしれない。
龍人はそう結論付けると、意識を内側から外側に集中させる。
今は六コマの授業を終え、SHR《ショートホームルーム》の時間だ。クラスメイトは全員自分の席に着席し、教室の一番前では棒付きの飴を咥える堕落系担任教師・天河崎輝がここ最近起きているとある事件について語っていた。
「……それで、これはもう皆知ってるかもしれないが、一昨日の夜から四季乃木高校の女子生徒がひとり行方不明だそうだ。名前は仰木朱熹。メディアで騒がれているように、恐らく例の神隠し事件が関わっている可能性が非常に高い」
天河崎がそう言い切ると、さっきまで静かだった教室がざわざわとし始める。今回の被害者は近所の学校の生徒だったので、皆動揺しているのだろう。
神隠し事件。
それはここ最近頻繁に起きているとある事件の呼び名である。
名前にあるように、これはある日を境に、その人が突然行方不明という事件だ。その痕跡はどこにもなく、魔導警察も全力で捜索しているようだがまだ有力な手がかりは見つかってないらしい。
これまでに消えた人の数は計一六人。今回ので一七人に増えた訳だが、消えた人達に共通する点はなく、警察の見解だと犯人は無差別に人を襲う通り魔の可能性が高いと語っている。
まあその通りだろうと龍人も思う。数日前に色々な事があり、紆余曲折して治安維持委員会"補佐"となった彼は以前警察署から送られてきた失踪者の細かいリストに目を通していた。
その内容を見ても、犯人は老若男女問わず、何か共通の理由があってその人を襲っている感じではなさそうだった。
「その仰木さんについて何か知っているヤツがいるなら、この後私のところに来てほしい。あと、学校側から。これから帰るときは複数で帰るようにとのことだ。何かあれば警報ブザーを鳴らして近くの建物に逃げ込んで助けてもらえ。分かったな?」
これで私からの話は以上だ、と天河崎が締めくくり、SHRは解散となる。
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