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生徒達は椅子から立ち上がり、ぞろぞろと教室から出て行こうとする。今回の被害者はすぐ近くの高校、それも自分達とほぼ同年代の少女だったためか、全員の顔はどこか不安の色があった。
神隠し事件がここ最近立て続けに起こっているため、鳳城魔術学園は解決するまで、ほとんど部活を休みにして、授業終了後は即時下校するよう呼びかけている。大会が近い部は特別に練習をしているが、それでも遅くて六時までだった。
それは龍人が所属する治安維持委員会も例外ではない。
確か今日は実戦を踏まえたチームプレイを訓練するんだったっけ? 時間もそうないし、集中してやらないとな、などと思っていたら、
「クノっちー。一緒にAS室に行こうぜい」
と横から声を掛けられ、龍人は顔をそちらに向ける。
声の主は前髪をヘアピンでとめる茶髪の少年、千歳千秋だった。制服の作りは龍人や他の大多数の生徒とは全く違うものだが、彼もこの学園の生徒であり、龍人の唯一の男友達と呼べる存在である。
そして千秋の横にはもうひとり。その体格は小学生と見間違えそうなほど小柄で首に最先端の技術が組み込まれたゴーグルをかける少女、蓮川柚稀が億劫そうな顔をしていた。
「はぁー。またまたまた今日も訓練なんだよー。これで一週間連続。こうも続くと流石に疲れちゃうよねぇ」
「しょうがないですよ。依頼がないんじゃ治安維持委員会に役目はないんですから。今は万事に備えつつ、訓練に励みましょう」
「むぅぅ。そもそも何で何で何で依頼がないのさぁー! この前の闘論会で、あたし達がどれだけ実力を秘めていたのか証明できたはずなのにィィ!!」
ムキぃぃー! と柚稀がヒステリックを起こす。
闘論会とは、自分達と他の治安維持委員会の意見が対立した時、そのどちらの意見を通すかを決めるために行われる小さな武闘大会だ。
先日それが最弱と謳われていた龍人が所属する鳳城魔術学園陣と最強と謳われていた英明館学院陣がぶつかり合ったのだ。
最後はお互い大将を残すのみ。しかし内容を見れば鳳城魔術学園の方が圧倒的に強かったのは明らかだった。……けれど最後の大将戦が行われていた最中に乱入者が現れたため決着は有耶無耶になってしまったのだ。
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